まにと爰をたちて、大路の花の中をゆく 長翁
 さらはとてなほゆくさきも花なからはなにわかれしこゝち■すれ
 さくら花咲てるちるまのしはらくはうき世也けりみよしのゝ山
町にいりて、湯川屋と云にやとりをかる
九日ていけよし、宿をいてゝまつ蔵王権現へまうつ、御前
にさくら四もとをうゑならへたり、此神はさくらをこのみ、
蹴鞠の道をまもりたまふ、されは飛鳥井殿にもむかし
より此神に法楽し給ふことありとなむ、おのれはた
とせあまりのむかし、この山分し侍りし、とき帰るさに、
かの御殿にまうつのほりてこゝの花をさゝけ侍りしかば、

みうたたまひにたることなと、この四もとによりておもひ
出らる、それより実城寺にまうつ、この寺や、後醍醐の
帝のひとたひの行宮にて、花のいろさへたゝならぬこゝちす、
この山の内にてはさはかりの寺なから、こゝにして五十余年
のおほむ世をしも、しろしめしたまへらんは、いまにして
見奉れは、まことならぬまておもひ奉りやられてなみだとゝ
まらす、かけてまをすもかしこけれとも、我津島なる氷室の
家は■良し親王の御裔にしあなれは、かれにつきこれに
つき、おもひつることおほき處なり、御簾のあたりをはる
かに拝みて             長翁