うでける事は。かのはかりしられぬひとつにて。われも人
も聞しれる事ながら。書なとにかたはしづゝしるせる。また
まうでたる老人たちの。又も又もかたりいづるなど。ひた
ふるにむかし語とのみ見聞てこそすぎしか。ことしやよひ
の半すぐる比より。阿波国の人々百千萬とかぞへもあへ
ず。いやまうでにまうづるをはしめにて。今はおほくの国々
みさかりにまうづと。まさめに見もきゝもして。老人のも
の語。ふみのかたはしなど。おもひよそへられつゝ。いとめづらしき

事どもなりかし。こゝにもかへり来て。とありかゝりなどものが
たる人々のあなるに。おのれもいにし年比まうでつる事さへ
おもひ出て。こゝかしこのさまをもとひきけは。大方の年とはな
ぞらへかたく。めざましううちおどろかれぬはなくなむ。先の
たひに松坂の里にて。稲懸のしけほといふ人の。其事こま
やかにかゝれたる双紙。やがておかげまうでの日記とうは書
せる一とぢありけり。さいつ比かの阿波人の中に。瀬辺春根
ぬしも家人のうかれゆきしをおひしきて。まうでつるかへ